微分幾何学
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Riemann 幾何学
田崎博之
2018
年度数学類 微分幾何学 Differential Geometry
授業概要
Riemann幾何学の基本事項について解説する。
目 次
第1章 テンソル場 1
1.1 テンソル代数 . . . . 1
1.2 ベクトル束 . . . . 7
1.3 テンソル場 . . . . 11
第2章 Riemann多様体 12 2.1 曲面の微分幾何学 . . . . 12
2.2 ベクトル束と線形接続 . . . . 15
2.3 Levi-Civita接続 . . . . 16
2.4 共変微分 . . . . 20
2.5 曲率テンソル . . . . 25
1
第 1 章 テンソル場
1.1 テンソル代数
定義 1.1.1 有限次元実ベクトル空間V に対して、V から実数Rへの線形写像の
全体をV∗で表し、V の双対ベクトル空間と呼ぶ。V∗はRの和と積から自然に定 まる演算によってベクトル空間の構造を持つ。v ∈V に対して
v(f) = f(v) (f ∈V∗)
によって、v : V∗ →Rを定めると、v ∈ (V∗)∗とみなすことができ、この対応に よって(V∗)∗とV を同一視することができる。δjiを
δij = {
1, i=j 0, i̸=j
によって定める。V の基底{u1, . . . , un}に対して、fi(uj) =δjiによって定まるV∗ の元{fi}はV∗の基底になる。特にdimV∗ = dimV となる。{fi}を{uj}の双対 基底と呼ぶ。
定義 1.1.2 p個の実ベクトル空間V1, . . . , Vpの積V1× · · · ×Vpから実ベクトル空間 W への写像F がV1からVpの各成分について線形写像になるとき、F を多重線形 写像と呼ぶ。有限次元実ベクトル空間V に対して、
z }|p { V∗× · · · ×V∗×
z }|q { V × · · · ×V 上で定義されたp+q変数の実数値多重線形写像をV 上の(p, q)型テンソルと呼び、
その全体をT(p,q)(V)で表す。T(p,q)(V)を(p, q)型テンソル空間と呼ぶ。T(p,q)(V) の元A, A′と実数rに対して
(A+A′)(g1, . . . , gp, v1, . . . , vq)
=A(g1, . . . , gp, v1, . . . , vq) +A′(g1, . . . , gp, v1, . . . , vq), (rA)(g1, . . . , gp, v1, . . . , vq) =rA(g1, . . . , gp, v1, . . . , vq)
によってT(p,q)(V)の加法とスカラー倍が定まる。この加法とスカラー倍によって
T(p,q)(V)は実ベクトル空間になる。T(p,q)(V)の元AとT(r,s)(V)の元Bに対して、
(A⊗B)(g1, . . . , gp+r, v1, . . . , vq+s)
= A(g1, . . . , gp, v1, . . . , vq)B(gp+1, . . . , gp+r, vq+1, . . . , vq+s) (g1, . . . , gp+r ∈V∗, v1, . . . , vq+s ∈V)
によって(p+r, q+s)型テンソルA⊗Bを定める。A⊗BをAとBのテンソル 積と呼ぶ。T(1,0)(V) = (V∗)∗ =V とみなし、T(0,1)(V) = V∗であることに注意す る。V の元u1, . . . , upとV∗の元f1, . . . , fqに対して、
(u1⊗ · · · ⊗up⊗f1⊗ · · · ⊗fq)(g1, . . . , gp, v1, . . . , vq)
= g1(u1)· · ·gp(up)f1(v1)· · ·fq(vq) (g1, . . . , gp ∈V∗, v1, . . . , vq ∈V) によって写像
u1⊗ · · · ⊗up⊗f1⊗ · · · ⊗fq :
z }|p { V∗× · · · ×V∗×
z }|q {
V × · · · ×V −→R は定まり、u1⊗ · · · ⊗up⊗f1⊗ · · · ⊗fqはV 上の(p, q)型テンソルになる。
命題 1.1.3 V を有限次元実ベクトル空間とすると、写像
T(p,q)(V)×T(r,s)(V) −→ T(p+r,q+s)(V)
(A, B) 7−→ A⊗B
は双線形写像になり、写像 z }|p {
V × · · · ×V ×
z }|q {
V∗ × · · · ×V∗ −→ T(p,q)(V)
(u1, . . . , up, f1, . . . , fq) 7−→ u1⊗ · · · ⊗up⊗f1⊗ · · · ⊗fq は多重線形写像になる。
定義 1.1.4 有限次元実ベクトル空間V に対して、
T(V) =
∑∞ p,q=0
T(p,q)(V)
とおく。ただし、T(0,0)(V) =Rとしておく。定義1.1.2で定めた双線形写像 T(p,q)(V)×T(r,s)(V) −→ T(p+r,q+s)(V)
(A, B) 7−→ A⊗B
を、T(V)×T(V)全体の双線形写像に拡張し、これを二項演算としてT(V)は代 数になる。T(V)をV 上のテンソル代数と呼ぶ。
命題 1.1.5 V をn次元実ベクトル空間とする。u1, . . . , unをV の基底とし、f1, . . . , fn をその双対基底とする。すると、
ui1 ⊗ · · · ⊗uip⊗fj1 ⊗ · · · ⊗fjq (1≤i1, . . . , ip, j1, . . . , jq ≤n)
はT(p,q)(V)の基底になる。特に、T(p,q)(V)の次元はnp+qになる。
1.1. テンソル代数 3 証明 まずui1⊗ · · · ⊗uip⊗fj1⊗ · · · ⊗fjq (1≤i1, . . . , ip, j1, . . . , jq ≤n)が線形 独立になることを示す。
∑n
i1,...,ip=1 j1,...,jq=1
aij1···ip
1···jqui1 ⊗ · · · ⊗uip⊗fj1 ⊗ · · · ⊗fjq = 0 (aij1···ip
1···jq ∈R)
とする。1≤k1, . . . , kp, l1, . . . , lq ≤nとなるk1, . . . , kp, l1, . . . , lqをとり、
(fk1, . . . , fkp, ul1, . . . , ulq) を上の式に代入するとakl1···kp
1···lq = 0となる。したがってui1⊗· · ·⊗uip⊗fj1⊗· · ·⊗fjq は線形独立である。
次にui1 ⊗ · · · ⊗uip⊗fj1 ⊗ · · · ⊗fjq (1≤ i1, . . . , ip, j1, . . . , jq ≤ n) はT(p,q)(V) を生成することを示す。T(p,q)(V)の元Aを任意に一つとる。V の元vに対して
v =
∑n j=1
fj(v)uj
となり、V∗の元gに対して
g =
∑n i=1
g(ui)fi となる。g1, . . . , gp ∈V∗とv1, . . . , vq ∈V に対して
A(g1, . . . , gp, v1, . . . , vq)
= A
∑n
i1=1
g1(ui1)fi1, . . . ,
∑n ip=1
gp(uip)fip,
∑n j1=1
fj1(v1)uj1, . . . ,
∑n jq=1
fjq(vq)ujq
=
∑n
i1,...,ip=1 j1,...,jq=1
g1(ui1)· · ·gp(uip)fj1(v1)· · ·fjq(vq)A(fi1, . . . , fip, uj1, . . . , ujq)
=
∑n
i1,...,ip=1 j1,...,jq=1
A(fi1, . . . , fip, uj1, . . . , ujq)
×(ui1 ⊗ · · · ⊗uip ⊗fj1 ⊗ · · · ⊗fjq)(g1, . . . , gp, v1, . . . , vq).
よって、
A=
∑n
i1,...,ip=1 j1,...,jq=1
A(fi1, . . . , fip, uj1, . . . , ujq)ui1 ⊗ · · · ⊗uip⊗fj1 ⊗ · · · ⊗fjq
が成り立つ。したがってui1 ⊗ · · · ⊗uip⊗fj1 ⊗ · · · ⊗fjq はT(p,q)(V)を生成する。
以上で
ui1 ⊗ · · · ⊗uip⊗fj1 ⊗ · · · ⊗fjq (1≤i1, . . . , ip, j1, . . . , jq ≤n)
はT(p,q)(V)の基底になることがわかった。このことから、T(p,q)(V)の次元はnp+q
になることもわかる。
定義 1.1.6 命題1.1.5の証明中にあるT(p,q)V の元Aの基底による表示 A=
∑n
i1,...,ip=1 j1,...,jq=1
A(fi1, . . . , fip, uj1, . . . , ujq)ui1 ⊗ · · · ⊗uip ⊗fj1 ⊗ · · · ⊗fjq
をAの成分表示と呼び、A(fi1, . . . , fip, uj1, . . . , ujq)をAの成分と呼ぶ。
注意 1.1.7 上の成分表示のように、和∑
の後で同じ添え字が上下組になって現 れ、添え字の動く範囲がわかっているときは、和の記号∑
を省略する。例えば、
上の場合は
A=A(fi1, . . . , fip, uj1, . . . , ujq)ui1 ⊗ · · · ⊗uip⊗fj1 ⊗ · · · ⊗fjq
と書き表す。この表し方をEinsteinの規約という。考えている基底が定まってい る場合には
Aij1···ip
1···jq =A(fi1, . . . , fip, uj1, . . . , ujq) と書くことにする。このとき、Aの成分表示は
A =Aij11······ijpqui1 ⊗ · · · ⊗uip⊗fj1 ⊗ · · · ⊗fjq となる。さらに、A= (Aij11······ijpq)とも表す。
命題 1.1.8 V をn次元実ベクトル空間とする。u1, . . . , unをV の基底とし、f1, . . . , fn をその双対基底とする。T(p,q)(V)の元Aを
A =Aij1···ip
1···jqui1 ⊗ · · · ⊗uip⊗fj1 ⊗ · · · ⊗fjq
と成分表示する。V のもう一つの基底u¯1, . . . ,u¯nとその双対基底f¯1, . . . ,f¯nをとり、
A= ¯Akl1···kp
1···lq u¯k1 ⊗ · · · ⊗u¯kp⊗f¯l1 ⊗ · · · ⊗f¯lq
と成分表示する。u1, . . . , unからu¯1, . . . ,u¯nへの基底の変換行列をg = (gki)で表し、
その逆行列をg¯= (¯gjl)で表す。すなわち、
¯
uk=gkiui, g¯ikgkj =δji. このとき、
A¯kl1···kp
1···lq =Aij1···ip
1···jqg¯ik1
1 · · ·¯gikp
pglj1
1 · · ·gljq
q
が成り立つ。
1.1. テンソル代数 5 命題 1.1.9 V を有限次元実ベクトル空間とし、V の基底u1, . . . , unとその双対基底 f1, . . . , fnをとっておく。T(p,q)(V)の元A = (Aij1···ip
1···jq)とT(r,s)(V)の元B = (Blk1···kr
1···ls ) のテンソル積A⊗Bの成分は、
(A⊗B)ij1···ipk1···kr
1···jql1···ls =Aij1···ip
1···jqBlk1···kr
1···ls
で与えられる。
定義 1.1.10 V を有限次元実ベクトル空間とし、基底u1, . . . , unとその双対基底 f1, . . . , fnをとる。A ∈T(p,q)(V)とする。1≤r ≤p, 1≤s≤qとなるr, sをとり、
写像
C(r,s)A:
p−1
z }| { V∗× · · · ×V∗×
q−1
z }| { V × · · · ×V →R を
(C(r,s)A)(g1, . . . , gp−1, v1, . . . , vq−1)
=A(g1, . . . , gr−1, fi, gr, . . . , gp−1, v1, . . . , vs−1, ui, vs, . . . , vq−1)
によって定める。するとC(r,s)A∈T(p−1,q−1)(V)となる。C(r,s)AをAの縮約と呼ぶ。
例 1.1.11 定義1.1.10においてp = q = 1の場合を考える。正確な詳しい議論は
例1.1.14で行うが、ここでは縮約の最初の例として簡単に述べておく。V の線形
変換の全体をEnd(V)で表す。A=Aijui⊗fj ∈T(1,1)(V)にEnd(V)の元 v 7→Aijfj(v)ui
を対応させることにより、T(1,1)(V)とEnd(V)は線形同型になる。これにより両 者を同一視する。このとき、
C(1,1)A=Aijui(fk)fj(uk) = Akk = trA.
すなわち、T(1,1)(V)の元をEnd(V)の元と同一視すると、縮約C(1,1)は線形変換の trに他ならない。縮約はtrの一般化になっている。
命題 1.1.12 定義1.1.10の縮約の定義は、V の基底のとり方に依存しない。また、
V の基底u1, . . . , unとその双対基底f1, . . . , fnに関する成分表示は (C(r,s)A)ij11······ijpq−−11 =Aij11······ijrs−−11iiijrs······ijpq−−11
となる。
証明 u¯k = gkiuiによって基底を変換すると、命題1.1.8または、その証明中に 示したことより、双対基底は、f¯l = ¯gljfjによって変換される。これを使うと縮約 の定義は基底のとり方に依存しないことがわかる。
縮約の定義より次がわかる。
(C(r,s)A)ij11······jipq−−11 =Aij11······jirs−−11iiijrs······jipq−−11.
命題 1.1.13 V とW を有限次元実ベクトル空間とし、
ϕ:
z }|p { V × · · · ×V ×
z }|q { V∗× · · · ×V∗ →W を多重線形写像とする。このとき
Φ(v1 ⊗ · · · ⊗vp⊗g1⊗ · · · ⊗gq) =ϕ(v1, . . . , vp, g1, . . . , gq) (vi ∈V, gj ∈V∗) を満たす線形写像
Φ :T(p,q)(V)→W が唯一つ存在する。
証明 命題1.1.5より、u1, . . . , unをV の基底とし、f1, . . . , fnをその双対基底 とすると、
ui1 ⊗ · · · ⊗uip⊗fj1 ⊗ · · · ⊗fjq (1≤i1, . . . , ip, j1, . . . , jq ≤n)
はT(p,q)(V)の基底になる。そこで、
Φ(u1 ⊗ · · · ⊗up⊗f1⊗ · · · ⊗fq) = ϕ(u1, . . . , up, f1, . . . , fq)
によってΦの基底上の値を定め、線形になるようにT(p,q)(V)全体に拡張すると、
Φは命題の条件を満たす線形写像になる。Φの条件はT(p,q)(V)の基底の像を定め ているので、このようなΦは一意的である。
例 1.1.14 V を有限次元実ベクトル空間とし、写像ϕ:V ×V∗ →End(V)を ϕ(u, f)(v) =f(v)u (u, v ∈V, f ∈V∗)
によって定めると、ϕは双線形写像になる。命題1.1.13より、
Φ(u⊗f) =ϕ(u, f) (u∈V, f ∈V∗) を満たす線形写像
Φ :T(1,1)(V)→End(V)
が唯一つ存在する。V の基底u1, . . . , unとその双対基底f1, . . . , fnをとる。
Φ(ui⊗fj)(uk) = ϕ(ui, fj)(uk) = fj(uk)ui =δjkui
となるので、Φ(ui ⊗fj)はuj をui に写し、他のukを0に写す線形写像になる。
よって
{Φ(ui⊗fj)|1≤i, j ≤n}
1.2. ベクトル束 7 はEnd(V)の基底になる。さらに命題1.1.5より、ΦはT(1,1)(V)の基底をEnd(V)の 基底に写し、線形同型写像になる。この線形同型写像によって、T(1,1)(V)とEnd(V) を同一視する。
A∈T(1,1)(V)の成分をAij とすると、A=Aijui⊗fjとなり、
Φ(A) = AijΦ(ui⊗fj).
よって、
Φ(A)uk =AijΦ(ui⊗fj)uk=Aijδkjui =Aikui
となり、(Aij)はΦ(A)の基底u1, . . . , unに関する行列表示になる。さらに、
C(1,1)A=Aii = tr(Φ(A))
となるので、C(1,1)A= tr(Φ(A))が成り立つ。つまり、T(1,1)(V)をEnd(V)と同一 視すると、T(1,1)(V)での縮約は線形写像のトレースになる。
命題 1.1.15 V とWを有限次元実ベクトル空間とし、F :V −→Wを線形写像と する。このとき次の条件を満たす線形写像
F(p,0) :T(p,0)(V)−→T(p,0)(W) が唯一つ存在する。条件:任意のv1, . . . , vp ∈V に対して
F(p,0)(v1⊗ · · · ⊗vp) =F(v1)⊗ · · · ⊗F(vp) が成り立つ。また次の条件を満たす線形写像
F(0,q):T(0,q)(W)−→T(0,q)(V) が唯一つ存在する。条件:任意のg1, . . . , gp ∈W∗に対して
F(0,q)(g1⊗ · · · ⊗gq) = (g1◦F)⊗ · · · ⊗(gq◦F) が成り立つ。
1.2 ベクトル束
定義 1.2.1 πE : E → M が次の条件を満たすとき、多様体M 上のベクトル束と 呼ぶ。
(1) E, M は多様体であり、πE :E →M は多様体の間のC∞級写像である。
(2) ある自然数kが存在し、M の各点pに対してpの開近傍U と微分同型写像 ΦU :π−E1(U)→U ×Rk
が存在し、u∈πE(U)に対してΦU(u)のU成分はπE(u)に一致し、
ΦU(u) = (πE(u), ϕU(u)) (u∈π−E1(U))
とおくと、x∈Uに対してπE−1(x)はベクトル空間の構造を持ち、
ϕU|π−1
E (x) :π−E1(x)→Rk は線形同型写像になる。
Eをベクトル束の全空間、M を底空間、πEを射影、π−E1(x)をxのファイバーと 呼ぶ。kをベクトル束の階数と呼び、rankEで表す。
定義 1.2.2 π :E →Mとπ′ :E′ →M′を多様体M とM′上のベクトル束とする。
x∈ Mに対してEx = π−1(x)、y ∈M′に対してEy′ = (π′)−1(y)と表す。C∞級写 像Φ :E →E′とϕ:M →M′がπ◦π =π′◦Φを満たし、各x∈M に対して
ϕ|Ex :Ex →Eϕ(x)′
が線形写像になるとき、Φをベクトル束の準同型写像と呼ぶ。Φ :E →E′が微分同 型写像になるとき、Φをベクトル束の同型写像と呼び、π:E →Mとπ′ :E′ →M′ は同型であるという。V をベクトル空間とし、M ×V からM への射影を考える ことによって、M ×V はM 上のベクトル束になる。M 上のEがM ×V と同型 になるとき、Eを自明ベクトル束と呼ぶ。次の例で扱うMの接ベクトル束T Mが 自明であるとき、Mは絶対平行性を持つという。
例 1.2.3 M を多様体とし、各x ∈ M におけるM の接ベクトル空間をTxM で 表す。
T M = ∪
x∈M
TxM
とおく。u ∈ T M に対してu ∈ TxM となるx ∈ Mが一つ定まるので、π(u) = x とおくと、写像
π :T M →M
が定まる。Mの各点pに対してpを含む座標近傍系(U;x1, . . . , xn)をとる。Uの 各点xにおいて
∂
∂x1
x
, . . . , ∂
∂xn
x
1.2. ベクトル束 9 は接ベクトル空間TxM の基底になるので、π−1(U)の各元uは
u=ξi ∂
∂xi
π(u)
と表すことができ、
ΦU(u) = (x1(π(u)), . . . , xn(π(u)), ξ1, . . . , ξn) (u∈π−1(U)) によって、写像
ΦU :π−1(U)→(x1, . . . , xn)(U)×Rn
を定める。これによって、π−1(U)上の座標(x1, . . . , xn, ξ1, . . . , ξn)をとることがで き、T Mは多様体になる。さらに、πの定め方よりπ :T M →Mがベクトル束に なることがわかる。これを多様体Mの接ベクトル束と呼ぶ。
定義 1.2.4 πE :E →Mを多様体M上のベクトル束とする。C∞級写像σ:M → EでπE◦σ= 1Mを満たすものを、ベクトル束Eの断面と呼ぶ。条件πE◦σ= 1M は、任意のx∈Mに対してσ(x)∈Exが成り立つことと同値である。Eの断面の
全体をΓ(M, E)または単にΓ(E)で表す。接ベクトル束の断面は、ベクトル場とも
いう。
例 1.2.5 Γ(M ×R)はM 上のC∞級関数全体とみなせ、ベクトル空間V に対し てΓ(M ×V)はM 上のV に値を持つC∞級関数全体とみなせる。
定義 1.2.6 多様体M の各点p∈Mの接ベクトル空間TpM に内積⟨, ⟩pが定まっ ていて、任意のベクトル場X, Y ∈Γ(T M)に対して⟨X, Y⟩ ∈Γ(M×R)が成り立 つとき、⟨, ⟩をM上のRiemann計量と呼び、(M,⟨, ⟩)をRiemann多様体と呼 ぶ。Riemann多様体の接ベクトルの長さや角度は、Riemann計量によってEuclid 空間と同様に定める。
例 1.2.7 M =Rnとおくと、各点の接ベクトル空間TxMは自然にRnと同一視で き、Rnの標準的な内積によって、MはRiemann多様体になる。
定義 1.2.8 ι:M →M˜ を多様体MからRiemann多様体( ˜M ,g)˜ への挿入とする。
すなわちMの各点xでのιの微分写像dιx :TxM →Tι(x)M˜ が単射であるとする。
このとき、M˜ 上のRiemann計量g˜のdιによる引き戻しg =ι∗g˜はM上のRiemann 計量になる。この(M, g)を( ˜M ,˜g)のRiemann部分多様体と呼ぶ。ただし、引き 戻しι∗˜gは
(ι∗g)˜ x(X, Y) = ˜gι(x)(dιx(X), dιx(Y)) (x∈M, X, Y ∈TxM) によって定義される。
注意 1.2.9 曲線論や曲面論で扱っている曲線や曲面は、RやR2の開集合からR2 やR3への挿入から定まるRiemann部分多様体を考察の対象にしている。
注意 1.2.10 定義1.2.8では、M˜ のRiemann計量からMのRiemann計量を誘導し
たが、MのRiemann計量を固定して議論する場合もある。そのときは、Riemann
多様体(M, g)から( ˜M ,g)˜ へのC∞級写像ιが、Mの各点xに対してdιx :TxM → Tι(x)M˜ は等長線形写像になるという条件をみたすとき、ιを等長的挿入と呼び、
(M, g)を( ˜M ,g)˜ のRiemann部分多様体と呼ぶ。
例 1.2.11 ι : M → ( ˜M ,g)˜ をRiemann多様体( ˜M ,g)˜ のRiemann部分多様体と する。
TM˜|M = ∪
x∈M
Tι(x)M˜
によってTM˜|M を定めると、T Mのベクトル束の構造からTM˜|Mもベクトル束に なることがわかる。各x∈M に対してdιx(TxM)はTι(x)M˜ の部分空間である。各 x∈Mに対して、
Tx⊥M ={u∈Tι(x)M˜ |g˜ι(x)(u, dιx(TxM)) = 0} とおき、
T⊥M = ∪
x∈M
Tx⊥M
でT⊥Mを定める。u ∈ T⊥M に対してu ∈ Tx⊥M となるx ∈ M が一つ定まるの で、π(u) =xとおくと、写像
π :T⊥M →M
が定まる。このとき、π : T⊥M → M はベクトル束になる。π : T⊥M → M を、
Riemann部分多様体M の法ベクトル束と呼ぶ。法ベクトル束T⊥M の断面をM
上の法ベクトル場と呼ぶ。
定義 1.2.12 Eを多様体M上のベクトル束とする。⟨, ⟩はEの各ファイバーの内 積を定めていて、Eの任意の断面s, tに対して
⟨s, t⟩(x) =⟨s(x), t(x)⟩ (x∈M)
によって定まるM上の関数⟨s, t⟩がC∞級になるとき、⟨, ⟩をベクトル束Eの計 量といい、(E,⟨, ⟩)を計量ベクトル束と呼ぶ。
例 1.2.13 定義1.2.6で定めた多様体のRiemann計量は、接ベクトル束の計量に 他ならない。また、Riemann多様体のRiemann部分多様体の法ベクトル束にも、
全体のRiemann多様体の計量から自然に定まる計量が入る。
1.3. テンソル場 11
1.3 テンソル場
定義 1.3.1 多様体Mの各点x∈Mの接ベクトル空間TxM上の(p, q)型テンソル 空間T(p,q)(TxM)をTx(p,q)M で表す。
T(p,q)M = ∪
x∈M
Tx(p,q)M
とおくと、T(p,q)MはM上のベクトル束になる(命題1.3.2)。T(p,q)Mの断面を(p, q) 型テンソル場と呼ぶ。テンソル場の和、関数倍、テンソル積、縮約は、多様体の 各点の接ベクトル空間上のテンソル空間における演算で定める。
命題 1.3.2 T(p,q)M はM上のベクトル束になる。
証明 u ∈ T(p,q)M に対してu ∈ Tx(p,q)M となるx ∈ M が一つ定まるので、
π(u) =xとおくと、写像π :T(p,q)M →Mが定まる。M の各点xに対してxを含 む座標近傍系(U;x1, . . . , xn)をとる。π−1(U)の各元uは
u=uij1···ip
1···jq
∂
∂xi1
π(u)
⊗ · · · ⊗ ∂
∂xip
π(u)
⊗dxjπ(u)1 ⊗ · · · ⊗dxjπ(u)q
と表すことができ、
ΦU(u) = (π(u), uij1···ip
1···jq) (u∈π−1(U)) によって、写像
ΦU :π−1(U)→U ×Rnp+q
を定める。これによって、π−1(U)上の座標(x1, . . . , xn, uij1···ip
1···jq)をとることができ る。これによって、T(p,q)Mに多様体構造が定まり、さらにπ:T(p,q)M →M にベ クトル束の構造が定まる。
例 1.3.3 Riemann計量は(0,2)型テンソル場になる。
命題 1.3.4 f :M →Nを多様体の間のC∞級写像とする。fはベクトル束の準同 型写像df(p,0) :T(p,0)M →T(p,0)N を誘導し、
dfx(p,0)(v1 ⊗ · · · ⊗vp) =dfx(v1)⊗ · · · ⊗dfx(vp) (x∈M, vi ∈TxM) が成り立つ。
証明 x∈M におけるfの微分写像dfx :TxM →Tf(x)N は、命題1.1.15より、
テンソルの空間の線形写像dfx(p,0) : Tx(p,0)M → Tf(x)(p,0)N を誘導する。これにより、
df(p,0) : T(p,0)M → T(p,0)N が定まる。多様体の局所座標を使ってdf(p,0)がC∞級
写像であることもわかり、ベクトル束の準同型写像になることがわかる。